2006年12月21日
山 本 速 報
ISSN
0915-9177
Since 1920
YAMAMOTO CIRCULAR
2538
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マックノート彗星 C/2006
P1 (McNaught)
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山本速報2524でその発見を紹介したこの彗星の追跡観測は,主として,発見地サイデング・スプリングで行なわれた.彼らのCCD全光度によると,彗星は,2006年9月には14等級まで明るくなったことが報告された.さらに,10月には,予想を越える光度上昇を示し,10月26日には11等級まで増光した.これらの光度解析から,マックノート(R.
McNaught)は,次の彗星の光度式を決定し,彗星の全光度(m1)は,今後,急速に明るくなっていくことを予想している(http://msowww. anu.edu.au/~rmn/2006P1.htm).
m1 = 3.5 + 5 log△ + 24.5 log r
この光度式によると,彗星は,その近日点通過時(2006年1月12日)には-15等級まで明るくなる.一方,彼の推測のとおり,スペインのゴンザレス(J.
Gonzalez, Leon)によるその後の彗星の眼視光度は,11月9日に9.8等,13日に9.3等,16日に9.1等と明るく観測された.上尾の門田健一氏(K.
Kadota, Ageo)も,夕方の低空に位置するこの彗星を精力的に観測し,そのCCD全光度を10月25日に12.9等,11月12日に10.5等,25日に9.3等と,その増光が続いていることを報告している.また,12月に入って,中旬に6等級で眼視観測されたらしい(cf.
YC 2524).
OAA計算課でも,その後に報告された眼視光度観測と信頼できるCCD全光度観測から,マックノート同様に彗星の光度式を決定すると,次のようになる.
m1 = 4.7
+ 5 log△ + 17.0 log r
左の光度変化図は,この光度式から,今後の彗星の光度を予想したもの.光度式の計算には,彗星が暗い時期のCCD全光度を1.5等明るくして使用された.これは,CCD全光度は,一般にその程度暗く見積もられることと,そのまま,使用すると,近日点近くの光度上昇がより著しくなるため.図からもわかるとおり,この光度式からの予報光度では,彗星が近日点を通過する頃には-8等級まで明るくなる.また,彗星は,2006年末には,すでに0等級まで明るくなるものと推測される.そこで,その頃の北半球(北緯
+35o)での予報位置を次ページの表に示めす.この表の地平高度のとおり,年末・年始には,彗星は,夕方と明け方の薄暮時の空,地平線上に見ることができる.その頃の高度は約3o前後と,このとき,彗星が予報どおり0等級まで明るくなっているなら,それを確かめることが可能かも知れない.なお,薄暮とは,太陽高度が地平線下-6oの位置にあるときで,これは,日没後と日出前の約30分後(前)の時刻にあたる.さらに,この位置予報から,北半球では,その後,急速に明るくなる彗星を,ほぼ,近日点通過まで,夕方の空で観測できる可能性もあることがわかるだろう.
OAA計算課では,2006年8月7日から11月25日までに行なわれた191個の観測から決定した.平均残差は0".37.軌道改良に使用された最終観測は門田氏による.
Epoch = 2007 Jan. 20.0 TT 。
T = 2007 Jan. 12.7969 TT ω = 155.9755
(1/a)org.= -0.000003
e = 1.000022
Ω = 267.4147 (2000.0) (1/a)fut.= +0.000457
q = 0.170729 AU i
= 77.8349
( Q = 6 )
-
continued -
2
YAMAMOTO CIRCULAR
No.2538
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薄暮終了時 薄暮開始時
2006/2007 α (2000)
δ Δ r Daily Motion Elong. Phase m1 PA/Tail 高度 方位角 高度 方位角
18h JST h
m
。 , AU AU , 。 。 。 等 。 。 。 。 。 。
Dec.
20 18 03.69 -09 40.4 1.683
0.766 40.0/ 76 14.0 18.1
3.9 11/1.90 +4.4 74.8
+0.2 281.9
21 18 06.32 -09 30.9 1.656
0.742 41.3/ 76 14.1 18.9
3.6 9/2.01 +4.1 75.2
+0.6 282.1
22 18 09.03 -09 21.1 1.629
0.717 42.6/ 77 14.2 19.7
3.3 7/2.12 +3.9 75.6
+1.1 282.2
23 18 11.82 -09 11.2 1.600
0.692 44.0/ 77 14.3 20.6
3.0 6/2.25 +3.6 76.0
+1.5 282.3
24 18 14.72 -09 01.2 1.572
0.666 45.6/ 77 14.4 21.6
2.7 4/2.40 +3.4 76.4
+1.9 282.4
25 18 17.72 -08 51.0 1.542
0.640 47.2/ 78 14.6 22.7
2.3 3/2.56 +3.2 76.7
+2.2 282.4
26 18 20.83 -08 40.9 1.512
0.614 49.0/ 78 14.7 24.0
2.0 2/2.74 +3.1 77.1
+2.6 282.5
27 18 24.06 -08 30.7 1.482
0.587 51.0/ 79 14.8 25.4
1.6 1/2.95 +2.9 77.4
+2.9 282.5
28 18 27.43 -08 20.8 1.450
0.560 53.1/ 80 14.9 26.9
1.2 0/3.18 +2.7 77.7
+3.1 282.5
29 18 30.95 -08 11.1 1.418
0.533 55.5/ 80 15.1 28.6
0.8 359/3.44 +2.6 78.0
+3.4 282.4
30 18 34.64 -08 01.8 1.385
0.506 58.1/ 82 15.1 30.6
0.4 358/3.74 +2.5 78.3
+3.5 282.4
31 18 38.50 -07 53.3 1.350
0.477 61.0/ 83 15.2 32.7
-0.1 358/4.07 +2.5 78.5
+3.7 282.3
Jan. 1 18 42.58
-07 45.8 1.315 0.449 64.2/ 85
15.3 35.2 -0.6 357/4.46
+2.4 78.7 +3.7 282.2
2 18 46.88 -07 39.8 1.279
0.420 68.0/ 87 15.3 38.1
-1.2 357/4.91 +2.4 78.8
+3.7 282.1
3 18 51.44 -07 35.9 1.242
0.391 72.3/ 89 15.3 41.4
-1.8 357/5.43 +2.4 78.9
+3.6 282.0
4 18 56.30 -07 35.1 1.203
0.362 77.4/ 93 15.2 45.3
-2.4 358/6.04 +2.4 78.9
+3.5 281.9
5 19 01.50 -07 38.5 1.164
0.333 83.6/ 97 15.0 50.0
-3.1 359/6.76 +2.5 78.8
+3.1 281.8
6 19 07.09 -07 47.9 1.122
0.303 91.4/102 14.7 55.6
-3.9 360/7.61 +2.6 78.5
+2.6 281.7
7 19 13.12 -08 06.1 1.080
0.274 101.6/108 14.3 62.4
-4.7 1/8.60 +2.7 78.1
+2.0 281.7
8 19 19.65 -08 36.8 1.036
0.246 115.6/115 13.7 70.9
-5.6
3/9.74 +2.7 77.4 +1.0
281.8
9 19 26.72 -09 25.5 0.991
0.220 134.8/124 12.8 81.6
-6.5 6/11.0 +2.7
76.4 -0.3 282.1
10 19 34.34 -10 39.9 0.947
0.198 160.6/133 11.6 94.8
-7.4 11/12.1 +2.5 75.0
-1.9 282.8
11 19 42.40 -12 28.3 0.904
0.181 191.0/141 9.9 110.9 -8.2
18/12.6 +2.0 73.1 -4.0
283.9
12 19 50.64 -14 56.9 0.868
0.172 218.8/149 7.9 128.5 -8.6
30/11.9 +1.2 70.6 -6.5
285.6
13 19 58.64 -18 02.9 0.839
0.172 234.0/154 6.0 143.6 -8.7
54/9.93 -0.1 67.7 -9.2
287.8
m1 = 4.7 + 5 log △ + 17.0 log r
(φ= +35o.5)
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彗星は,近日点通過の前後には,太陽のごく近傍を通過する.このときの彗星の動きを描いたのが下の図となる.この図には,12月1日から1月19日までの太陽の近傍での彗星の動きを描いてある.太陽の北側にあった彗星が,1月には,急速に南下して行くようすがわかるだろう.彗星は,近日点を通過する前後,LASCO
C3広角カメラ(写野約16o)の写野内に1月13日,14日,15日に入ってくることがわかる.従って,年末・年始に,彗星の増光が確認できない場合でも,このときまで待てば,彗星が本当に-8等級まで明るくなっているかどうかが,確実に判断できることになる.ただし,LASCOカメラには,彗星は,きわめて明るい天体として捕らえられることに注意のこと.なお,彗星は,近日点通過まで,地球から見て,太陽の向こう側から近づいてくる.そして,近日点通過頃に太陽と地球の間に入り込む.そのため,その尾は,地球の方向に伸びるために,近日点通過時には,それほど長い尾は見られないだろう.
彗星が明るくなることに関して,いくつかの不安要素もある.それは,この彗星の近日点距離がq= 0.17 AUと,もともと小さいために,単なる数字の遊びで明るくなっているのではないかということ.また,この彗星の原初軌道の軌道長半径の逆数は(1/a)=
-0.000003で,軌道の誤差を考慮すると,彗星は,オールトの彗星雲からやってきたいわゆる「新」彗星であるものと思われる.この種の彗星は,太陽近傍での活動が鈍く,予報どおり明るくならないことが知られている.さらに,発見当初の彗星の標準等級H10= 10.0等は,太陽近傍で消滅してしまう彗星の限界点以下であった.ただし,このことは,11月25日の門田氏の観測光度が9.3等(H10= 6.4等)であったことを考えると,このボーダ(消滅)はクリアできただろう.このようにいくつかの心配なことがらもある.しかし,いずれにしろ,LASCO
C3カメラに入ってきたとき,どの程度の明るさになっているかで,今後の彗星の動向がわかるだろう.楽しみに新年を待ちたい.
2006 December 21
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Syuichi Nakano
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